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シャンパーニュ地方「ヴァレー・ド・ラ・マルヌ」が今、面白い!

シャンパーニュ地方「ヴァレー・ド・ラ・マルヌ」が今、面白い!

シャンパーニュの中心産地といえば「モンターニュ・ド・ランス」「ヴァレー・ド・ラ・マルヌ」「コート・デ・ブラン」の3地区が筆頭に挙げられます。
10月初旬にヴァレー・ド・ラ・マルヌより生産者が来日し、セミナー&試飲会が開催されました。セミナー講師を務めたのは「銀座レカン」のシェフソムリエ、近藤佑哉さんです。
主催:フランス貿易投資庁ビジネスフランス

text & photo by Chiyoko IIJIMA

近藤さんは「ポメリー・ソムリエコンクール2019」で優勝するなど若手のホープ。当日は6社のうち4社から担当が来日しました。

ヴァレー・ド・ラ・マルヌはエペルネから西に向かい、マルヌ川両岸に広がる産地です。総面積は3357ha(およそ東京ドームの720倍)の土地から、シャンパーニュ総生産量の10%が生産されています。シャンパーニュの製法の基礎を確立したピエール・ペリニヨン(ドン・ペリニヨン)修道士がいたオーヴィレール村もこの地区にあります。

シャンパーニュの主要品種シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエのうち、ヴァレー・ド・ラ・マルヌはムニエの産地であり、大手生産者への供給源としても知られてきました。
「ムニエは早熟でブレンドに丸みを与える品種でシャルドネやピノ・ノワールに比べて人気が少しかけるようなイメージがありましたが、それはかつての話。近年はブドウがよく熟しますし、ムニエの酸はとてもきれい。4つのサブ・リージョンを深めると面白いです」と近藤さん。

右岸の斜面の熟したブドウ

今回注目したサブ・リージョンは、まずはマルヌ川の右岸(ヴァレー・ド・ラ・マルヌ・リヴ・ドロワ)と左岸(ヴァレー・ド・ラ・マルヌ・リヴ・ゴーシュ)。
近藤さん曰く「右岸では畑が南向きの斜面なので、ブドウが日照の恩恵を受けて力強いスタイルになります。一方、左岸は畑が北向きとなり、熟しつつも寒暖差で非常にフレッシュな酸味を保つことができます」。
他にもアイ村などピノ・ノワールが有名なエペルネの北部に広がるグランド・ヴァレー・ド・マルヌ、またエペルネの南部にはコトー・シュド・デペルネが広がります。

モザイクの土壌が生み出すスタイル

さらに西側(ヴァレー・ド・ラ・マルヌ・ウエスト)と呼ばれるサブ・リージョンも様々な土壌が混在していますが、シャルドネの名産地もあります。
まさにヴァレー・ド・ラ・マルヌはモザイクの土壌構成で、エリアによってシャンパーニュの個性が変わってくるのです。

ちなみに今回来日した6生産者のほとんどが、まだ日本に輸出をしていません。
「これら12本を通して、新しいヴァレー・ド・ラ・マルヌのスタイルの発見となりました」と試飲の感想を語る近藤さん。

私が印象に残ったのは、これまでムニエは穏やかで早熟と教えられてきましたが、今のヴァレー・ド・ラ・マルヌは本当に酸がきれいと近藤さんが絶賛していたこと。
また南向きの斜面の熟したピノ・ノワールの芳醇な美味しさ、アカシアの樽というのを初めて知りましたが、そのアカシア樽で醸造したピュアできれいなシャルドネなどです。

シャンパーニュの新しい試み

最後に現地の最新情報も生産者よりありました。
昨年は雹害で今回のメンバーの中にも収穫できなかった方もいたほどだったそうです。しかし今年は「自然は寛大だった」とのこと。
現在、こうした気候の問題やブドウの生育問題など、様々な研究がなされているそうです。

また国立原産地・品質研究所(INAO)が新品種ヴォルティス(Voltis)を承認したことについても語ってくれました。
これはベト病やうどん粉病に強い耐性品種で、2023年からシャンパーニュに使えるそうです。耕作面積の最大5%まで栽培でき、シャンパーニュには最大10%までブレンドできますが、ヴォルティス100%は造れないとのこと。試験的のようですが、新しい試みに期待したいところです。

研究の成果が試され、やがて新たな味わいのシャンパーニュが誕生となることでしょう。

個性的な12本の味わいコメント

それでは生産者と近藤さんの試飲コメントを紹介します。
いつか輸入されたら、おすすめのマリアージュを試してみたいです。

『Champagne Philippe Dechelle Blanc de Noirs Pinot Noir 2014』
『Champagne Philippe Dechelle Blanc de Blancs 2011』
「シャンパーニュ・フィリップ・デシェル」はマルヌ渓谷の西側、シャトー・ティエリー近くのブラルに9haの畑をもつ。3代目のクララさんが醸造を担当。2014年は冷涼な夏、2011年は非常に日照に恵まれた年だったという。
「1本目は100%ピノ・ノワールを使った濃いゴールド色。南向きでよくブドウが熟しています。ドライフルーツ、カリン、ジンジャーブレッドのようなスパイシーさと甘やかさも。2014年は冷夏だったおかげでエレガントな酸を感じます。2本目はシャルドネ100%でレモンコンフィ、マンダリンオレンジ、ジャスミンのような華やかさも。かすかにクリームチーズも感じられ、この生産者は香りの表現の仕方がとてもきれいです」

『Champagne Angellis Réserve』
『Champagne Angellis Rosé』
「シャンパーニュ・アンジェリス」はクリスティーヌ&ベルタン・フルリー姉弟が家族経営のワイナリーを受け継ぐ。畑は右岸のトレルー・シュール・マルヌの8haが中心。
「レゼルヴは3品種のブレンドの妙が楽しめます。赤リンゴや洋ナシの甘やな香り、キャラメルやヨードのミネラルのフレーバー。オリエンタルな印象もあり、エスニックや中華、なかでも四川系のスパイシーな料理と合います。ブドウがよく熟しているのでロゼに向いている産地のひとつ。ロゼはきれいな色味。香りは華やかでチャーミング。味わいには酸があり心地よいタンニンも感じられます。赤身の魚や肉料理と合わせたいですね」

『Champagne Daniel Gerbaux Le Demi-Sec』
『Champagne Daniel Gerbaux Le Rosé Brut』
「シャンパーニュ・ダニエル・ジェルボー」はシャトー・ティエリー近郊のシェジー・シュール・マルヌに拠点を置き、畑はヴァレー・ド・ラ・マルヌ全域に点在。「VDC」(シャンパーニュ地方の持続可能なブドウ栽培認証)と「HVE」(フランス農業省による環境認証)を取得し環境に敬意を払っている。
「1本目はフルーツ由来の甘みときれいな酸の印象。甘いだけでなくフレッシュ感があり重厚な味わい。赤酢の酢飯を使った江戸前寿司とこの甘みが合います。ロゼは深いオレンジ色の外観。上質なピノ・ノワールが熟成すると出てくるダージリンやアッサムの印象。赤い果実のほかシナモンやクミンのスパイシーさも。こういうロゼは今まであまり出合っていなかったです」

『Champagne Leclère Torrens Acacia 2019』
『Champagne Leclère Torrens Brut』
「シャンパーニュ・レクレール・トラン」は西側クルット・シュール・マルヌを拠点とし、畑はクルット・シュール・マルヌと隣りのシュルリー・シュール・マルヌに3.8ha、30区画でブドウを栽培する。このエリアにはアカシアが多くあることからアカシアで樽を作り、この樽でシャルドネの醸造を2019年ヴィンテージより始めた。
「1本目のアカシアはシャルドネの産地らしく摘みたての花のような香りで緻密。アロマティックで華やか、レモンゼストのような印象。2本目はムニエを主体に3品種のブレンドで甘やかで重厚、緻密な印象。2本とも共通してエレガントな味わいです」

『Champagne Météyer Père et Fils Carte Argent』
『Champagne Météyer Père et Fils Cuvée Marine 2017』
「シャンパーニュ・メテイエ・ペール・エ・フィス」は右岸で1860年創業。現在はで5代目フランクさんが醸造を担当。トレルー・シュール・マルヌの14.5haの畑から年間45000本のみ生産。テート・ド・キュヴェ(一番搾汁)のみ使用。マロラクティック発酵をせずエナメル・スチール・タンクを使用。持続可能なブドウ栽培を実践し「HVE」を取得。
「1本目は南向きの畑のブドウの熟度が感じられます。テート・ド・キュヴェのみ使用という贅沢な造り。3品種を使っておりとてもピュア。2本目はシャルドネ主体で3品種を使っており、マロラクティック発酵をしていないので、より果実の成熟度の高さを感じます。ブルゴーニュのいいシャルドネの印象も」

『Champagne Lévêque-Dehan Adret Brut Zéro』
『Champagne Lévêque-Dehan Adret Extra Brut』
「シャンパーニュ・レヴェック-デュアン」は右岸のバルジー・シュール・マルヌに6haの畑をもつ。5代目のエリックさんが醸造を担当。2本とも品種はムニエ70%、ピノ・ノワールとシャルドネが各15%。違いはドザージュでブリュット・ゼロが1g/1、エクストラ・ブリュットが4g/1。
「こちらも右岸の南向きのブドウを使っています。ブリュット・ゼロはムニエらしく芳醇で洋ナシの香り、アプリコットのトーン。これまでムニエは穏やかで早熟と教えられてきましたが、今のヴァレー・ド・ラ・マルヌは本当に酸がきれいでキリっとタイトに引き締まった印象です。2本目の方がやや骨太な印象です」