発信ツールとして2023年4月にHPリニューアル予定

宮城県に「南三陸ワイナリー」誕生!ワインを軸に地元に賑わいを取り戻したい

2020年10月7日、宮城県南三陸町に「南三陸ワイナリー」が誕生しました。東日本大震災の被災地で、地元産のブドウを用いて自社で醸造する、海の近くに建造された新たなワイナリーです。代表取締役の佐々木道彦さんにワイナリーをつくった思いをうかがいました。

文・飯島千代子

山形県出身の佐々木さんは元楽器メーカーの社員で静岡県で働いていました。震災後に出向したおり、被災地のがれきを見て衝撃を受け、新しい事業を起こさないといけないと思ったそうです。そこで6年前に意を決して仙台に移住しました。移住後の仕事のひとつに『神の雫』の原作者、亜樹直さんとのワイングラス企画があり、ワインの面白さに開眼したといいます。その頃「南三陸ワインプロジェクト」の活動を知り、自身も2018年に加わり、翌19年に「南三陸ワイナリー株式会社」を設立しました。

南三陸ワイナリーの外観
元水産加工場を再利用しているそうです。
2階のカフェテラスからは目の前の海が望めます。
代表取締役の佐々木道彦さん

自社畑ではシャルドネを主力に

自社畑は南三陸町の西部にある入谷地区、気仙沼市と南三陸町の境界にある田束山(たつがねさん)の他、山形県のブドウ栽培地としても知られる「かみのやま」にも新たに畑を購入し、現在3カ所にあります。入谷地区のブドウは樹齢が4年で、品種はほとんどがシャルドネ。一方、田束山には今年シャルドネ、メルロを中心に、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ、ビジュ・ノワールを合計2300本植樹しました。試験的にカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールも植えています。かみのやまでは、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロを植樹し、作業の一部を栽培委託しています。

田束山の1・9ヘクタールの畑はもともと町有地で震災前には乳牛の牧場でした。震災後に町に返還されたものの耕作放棄地となっていました。

「ちょうど自社畑用の広大な土地を探している時に町からお声をかけていただきました。頂上は500メートルの標高で寒暖差もあります。斜面もあり日当たりもいい。さらに水はけもよく、ブドウ栽培に向いていると判断しました。今後はもっとブドウに良いように土壌の改良をしていくつもりです」と佐々木さん。

昨年までは仙台にある秋保醸造所に委託醸造をしていましたが、今年のヴィンテージから自社畑で収穫したブドウは自社で醸造します。まずは中心となるシャルドネの個性をしっかり打ち出すことに注力していますが、次に力を入れていきたいのが、新潟や富山、大分で成功をおさめているアルバリーニョとのこと。

「太平洋側のこの沿岸一帯はリアス式海岸で、スペインのガリシア州のリアス・バイシャスと同様の環境です。彼の地を代表するアルバリーニョに適していると思います。辛口に仕上げ、魚介類に合う味わいを目指します」

入谷地区のシャルドネ
田束山の自社畑
新しい醸造設備も揃ったので、いよいよ自社で醸造開始です

ワインが紡ぎ出す交流を

「どうやったら南三陸町に賑わいを戻せるのか。ワインを核にして、海と山の食材をつなげていけば新しい産業が生まれ、ワインツーリズムが目指せるのではないか」とワイナリー設立の目的を語る佐々木さん。

地元にはこだわりの生産者も多く、例えば数量を減らして味わいを美味しくした結果、国際認証を受賞したカキ漁師や豚を放牧して脂身も臭くならない豚肉を生産している方もいます。品質の高い食材であっても個々でブランドを確立するのは簡単ではありません。そこでワインに合う地元の食材を提案し、食の体験の場を提供することで南三陸町に人が集い、やがては移住する人も増えてきて賑わいが戻ってくるのではとワイナリーの役割に期待を膨らませています。すでに地元産の魚介類とワインのマリアージュセットなどを販売していますが、自社のシャルドネが登場となれば、さらにカキなどのシーフードと絶妙なマリアージュとなりそうです。

「ワインと食を通して南三陸町の楽しさを、町の人にも県外の人にも体験してほしい。和食の多い町の方々にも食の発見をしてほしいですね」と佐々木さんは力強く語ります。  ワイナリーのフェイスブックを見ると、クラウドファンディングをはじめ、実に多くのボランティアが参加してワイナリー建設作業や収穫作業を手伝っています。ワインを中心にまさに人の輪が生まれて、つながっているようです。このように逆境にもめげずに新たな産業を生むべく歩み始めたワイナリーの存在は、多くの人に希望の道しるべとなる気がします。