「たらこスパゲッティ」
“もしイタリアに京都という州があったら”をコンセプトに京都発のイタリアンとして人気の「イル•ギッオットーネ」の笹島保弘シェフは、京都と東京のお店の行き来に加え、イベントやメディアの出演など、全国各地を駆け回っています。 そんなパワフルな笹島シェフが日本料理の原点でもある京都からつくり出すイタリア料理は、伝統的な京野菜をメインにしたクリエイティブなものばかり。次々と新しい仕掛けを生み出す笹島シェフにとっての「ニッポンの味」をうかがいました。
「たらこスパゲッティ」って日本にしかないパスタだけど、世界に誇れるひと皿だと思います。たらこという日本の素材が、イタリアのパスタとこんなにも合うなんて。最後の晩餐に食べたいのは親子丼だけど(笑)最後に食べたいパスタは絶対に「たらこスパゲッティ」ですね。
僕が料理人になった1980年代の頃はまだ本格的なイタリア料理店は少なくて、最初に働いた店も洋食のダイニングのような店でした。そこのまかないで食べた「たらこスパゲッティ」が本当においしかったんです。生クリームやバターを使わないとてもシンプルなものだったのですが、なんというか、プロの味だな、って思いました。シェフはホテル出身の人で、料理の基礎があり、ソースなどはすべて一から仕込むなど、素材の味もとても大切にしていたことを覚えています。だから「たらこスパゲッティ」もシェフならではの、何気ない技が隠された一品だったのでしょう。さすがにお店では出さないけど、今でも機会があるとよく作っています。当時作っていたものと比べると少しずつ進化していて、自分の過ごしてきた年月に合わせて好みやアイディアが入って、この世界に入って月日がたったんだなあと思えるひと皿でもあります。
ところで、僕がイタリア料理の世界に入ってからもっとも大切にしているキーワードがあります。それは「京都」ということ。そしてさらに言えば「ここは日本である」ということです。実はこう思えるようになるまでには葛藤がありました。イタリアの素材を使い、イタリア本場の味を再現することがイタリア料理だという声をずっと聞いていましたから。でもある日、イタリア人のシェフたちに聞いてみたんです。イタリア料理って何なのかって。すると、彼らは口を揃えてこう言うんです。「イタリア料理っていうくくりはないよ。ミラノならミラノ料理、ローマならローマ料理。それぞれの土地のものを使って土地の人に合わせて作った料理なんだから」 そこで気づかされました。僕がいる京都にはいい食材があふれているのだから、地のものを使って京都の人たちのために作ればいいのだと。つまり、郷土の料理と謳われるイタリア料理の精神を組むことが、イタリア料理なんじゃないかな、って。そう考えるようになると、京都発、日本発のイタリア料理がおもしろくて。生産者にも積極的に会うようになりました。
「たらこスパゲッティ」はそんな考えの延長線上にあるんです。日本のたらこ、イタリアのオリーブオイルとパスタとのすばらしい出会いが、僕という料理人によって、日本ならではの一品にまとめられるんですからね。自信を持って、イタリア人に食べてもらいたいパスタです。
text by Hiroko Shinbori
→「たらこスパゲッティ」レシピ
笹島保弘シェフ/プロフィール
1964年大阪府出身。高校卒業後料理の世界に入る。24歳で初めてシェフを任され、その後は独学で研鑚。32歳の時にはTV「料理の鉄人」にも出演する。2002年に独立し、京都に「イル •ギオットーネ」をオープン。2005年には丸の内に出店し、その後もドルチェ専門店やバール、フードプロデュースしたレストランをオープンするなど幅広く活躍する。
イル・ギオットーネ京都店
京都府京都市東山区下河原通塔の前下ル八坂上町388-1
TEL:075-532-2550
営業時間 12:00~14:30LO/18:00~21:30LO
火曜定休
イル•ギオットーネ 丸の内店
東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA1F
TEL 03-5220-2006
営業時間 11:00~14:00LO/18:00~22:00L O
不定休
*写真は丸の内店