「京野菜のおでん」
虎ノ門のオフィス街を一本入った静かな裏道に2011年に移転オープンした「新ばし 笹田」はミシュラン1つ星を獲得した日本料理の名店です。店主の笹田秀信氏は奈良県出身。独立後10年で今の地位を築きますが、「日本料理は奥が深くまだまだ勉強しなければならない」と話します。いい素材とそれを扱う技術をとことん突き詰る笹田氏にとっての「ニッポンの味」をうかがいました。
この「京野菜のおでん」は、僕が独立して10年、冬が来ると必ず作る一品です。具材はきまって聖護院大根、京人参、海老芋、九条ネギのさつま揚げ、うずらの半熟卵と比内地鶏の皮の6種類。大好きな京野菜をたっぷり使っています。おでんと言っても、それぞれの食材を別々に下処理をしていて、素材の持ち味を感じられるバランスでだしを染み込ませています。正確には煮物ですが、“おでん”というネーミングにしたのは、まだ独立してすぐの2005年頃です。当時はまだお店も小さくて、お客さんの数も少なかった。それでもっと肩肘はらずに食べてもらえるような、親しみやすいメニューにしたんです。ほっと染み渡るような味と家に帰ってきたような安心感を得られるお店にしようと。けれどおでんと思って口に入れたら、ひとつひとつの仕事がきっちりしてあり、素材の持ち味がしっかりする、いつもと違うおでんだぞって(笑)。それってちょっとしたサプライズかなって遊び心もありました。
日本料理は、素材の味をそのまま生かすのが基本です。いい素材に細かいていねいな仕事を加え、最小限の味付けで仕上げます。そのため、まずは食材選び。直接産地から仕入れるものもありますが、基本的には毎日築地で仕入れています。いいものを手に入れるために重要なこと、それは築地の卸業者さんと信頼関係を作ることだと思います。魚でも野菜でも、業者が日々取り扱う食材の数は料理人よりはるかに多い。その分、目も確かです。目利きのある業者さんといい関係を築くことで、いい食材を手に入れています。それでもその時々で食材の味は違います。すべての素材は自然のものなので、いつも満点の食材があるわけではないですからね。でもそれを満点以上にすることもできる。包丁の入れ方や炊く時間、調味料のバランスなどでまったく違う味になるのが日本料理です。煮物は特にその加減が重要になる、とても奥深いニッポンの味だと思います。その中でも「京野菜のおでん」は僕の求める“一流の食材を使った一流の家庭料理”、その奥深さを突き詰めていきたい一品です。
text by Hiroko Shinbori
→「京野菜のおでん」 レシピ
笹田秀信氏 プロフィール
1971年奈良県出身。高校卒業後日本料理の道に入る。10数年にわたる日本料理店での修業を経て2005年独立。カウンター7席程のこじんまりした店舗でスタートし2007年から現在までミシュランの星を獲得。2012年に現在の店舗に移転。