「大人様ランチ」
銀座•並木通りに店を構える「マルディグラ」の和知徹シェフは肉料理のスペシャリスト。生産者を訪ねて厳選された肉は、それぞれの産地から日々直送されています。素材の滋味を引き出すため、できるだけシンプルにと話す和知シェフが作り出す料理はフランス料理をベースに、世界を旅して加えられたエッセンスがつまっています。各国の料理を知る和知シェフだからこそ考える「ニッポンの味」をうかがいました。
子供の頃に食べた「お子様ランチ」、あれは日本人にとっての洋食への入り口だったんじゃないかと思います。いつもの食卓とは違う、レストランだからこそ食べられるいろいろな洋食が盛り込まれたひと皿に、ワクワクした人も多いのではないでしょうか。メニューは決まってハンバーグやエビフライ、ナポリタンなど、西洋料理を日本が独自に発展させていったものばかりです。日本人が自分たちの口に合うように練り上げて完成させた日本の西洋料理、その数々がつまったワンプレートが「お子様ランチ」です。そのおいしさとワクワク感を大人も味わいたい!(笑)と思い、僕流の「大人様ランチ」を作りました。
まずはハンバーグ。僕が子供だった1970年代は、ステーキ肉はとても高価でしたから、手に入りやすい挽肉が主流だった。その代表的な一品がハンバーグです。肉は、僕が長年好んで使っている日本固有の牛、短角牛です。今でこそ赤身の肉が注目されてきたけど、まだ霜降り肉が主流だった20年近く前から僕は短角牛をずっと使い続けています。赤身の肉のうま味に加え、同じ牛の内臓を混ぜて深みを出しています。内臓のうま味は大人だからわかるおいしさでもありますね。
次はハムカツです。ハムはドイツのイメージですが、ご存知のとおり日本の食卓で広く活用されています。脇役が多い食材かもしれませんが、このハムカツはイベリコ豚最上級のものを使った自家製のスモークハムにゴータチーズを合わせ、ボリュームを出した豪華な一品です。付け合わせはポテトサラダにしました。日本のじゃがいもはとても優秀で、どんな料理にもなると海外でも評価されています。何にしようかと悩みましたが、この時期のものは冬を越してとても甘みが増しているのでシンプルに仕上げました。
また、鶏からあげは、日本の食卓の定番です。お店でもスパイスの効いたニューオーリンズ風のものを出していることがありますが、今回は日本のからあげを意識しつつ、フランスの風を感じるよう下味はポートワインで、仕上げの粉はデュラムセモリナ粉を使用しました。
そしてナポリタン。これは日本で生まれた「ザ•日本のパスタ」です。イタリアのポモドーロをベースにこれだけ日本のスタイルに変化しながら、不動の人気があるスパゲッティは他にはないと思います。僕のポイントは特製の“トマトピーマンケチャップ”で風味を出しているところです。
デザートはやっぱりプリン。これはカラメルをかなり煮詰めて苦みを効かせています。色々なものを食べて経験してきた大人だからこそわかる苦みのおいしさ「大人様ランチ」の締めですね。
日本の料理のひとつのカテゴリーとして確立している“洋食”の代表格をマルディグラ流にひねりを利かせました。ノスタルジックな想いも感じられる、僕にとっての”ニッポンの味“に仕上げたひと皿です。
text by Hiroko Shinbori
→「大人様ランチ」レシピ
和知 徹 シェフ / プロフィール
1967年兵庫県生まれ。1985年辻調理師専門学校に入学、翌年フランス校へ。ブルゴーニュの一ツ星「ランパール」で半年間研修。87年「レストランひらまつ」入社。ひらまつ在籍中の96年、パリ「ヴィヴァロワ」で3カ月研修し、帰国後、ひらまつ系列の飯倉「アポリネール」料理長に就任。退職後、98年銀座「グレープガンボ」の料理長を3年務める。2001年、「マルディグラ」をオープン。