「白ごはんとお味噌汁」
西麻布の路地を入ったビルの2階にある「料理屋こだま」は、身体に深く染み渡る料理を追求する小玉勉氏が2002年にオープンした日本料理店。2009年よりミシュランガイドで星を獲得し続けています。店内に広がるカウンターに座れば、素材から器に盛るまでのすべての行程を目の前で楽しめ、食材の取り扱いにこだわる姿勢が伝わってきます。「食べ手の身体の一部になるものを作っているのだから、とても責任のあること」。そう話す小玉氏にとっての「ニッポンの味」をうかがいました。
私が料理を考える上で一番大切にしていること、それは身体にいいものかどうかということです。こういう言い方をすると料理人としてちょっと語弊があるかも知れないけど、料理が美味しいかどうかは私の考えの中では2番目なんです。まずは食べた人が健やかな気持ちになってからだが癒される、そんな料理が基本。だから今回のテーマをもらったとき、日本人の身体の基礎となっている 「ごはんとお味噌汁」。これしかないと思いました。何百年も昔から日本で食べ続けられていて、日本人の体質に一番合っているものだし、調理もとてもシンプルなので、本来の素材の美味しさをそのまま味わえます。
私はどの素材も特に産地やブランドにこだわっていません。作る料理が直接お客様の身体をつくると考えているので生産者がまじめに心をこめて作っているものかどうかと、食べ物として生命力があるかどうかを大事にしています。そういう素材は味わいをしっかり持っているので調味料に頼らずに料理が出来ます。例えば今回の味噌汁もだしを3種類でしっかりととっています。そうすると、本来昆布やいりこなどが持っている自然の塩分で十分に味わいがでるので、味噌は少量しか使っていません。塩分や油脂に頼らない料理は身体に負担をかけずに吸収出来ますから。身体にいい調理法で作った料理には、必ず味がついてきます。
このメニューにしたもうひとつの理由に日本の食文化を大事にしたい、というところもありました。日本の食の柔軟性は世界でもトップクラスで、色々なものを日本流にアレンジし、日本食として成立させていると思います。ハンバーグや餃子、ラーメン、すき焼き、今流行っているご当地グルメなども他国から取り入れたものがほとんど。もちろん伝統に新しいものを積み重ねて変わっていくのはいいと思うし、和食はこうあるべきという思いがある訳でもありません。けれど、本当に日本人に必要なお米や味噌の消費量が減っているのはとても残念なこと。世界各地でお米は食べられているけれど、日本で生産されている米はずば抜けて品質が高いと思います。そういう食材や、伝統を守っていけるのは国ではなくて私たち個人だと思います。そういう思いを込めて、僕にとっての「ニッポンの味」を日本人の原点のこの一品にしました。
text by Hiroko Shinbori
→「白ごはんとお味噌汁」レシピ
小玉 勉 氏 プロフィール
学生時代のアルバイトの経験から料理の道に入り、東京や関西での日本料理店、懐石料理店などをはじめ、そばや天ぷらの専門店、ふぐ料理店、寿司店での経験も持つ。修業経験というものはなく料理はすべて独学で身につける。お客様を先生と考え研鑽を積み、 2002年東京・西麻布に「料理屋こだま」をオープン。