「鮎のリエットとソテー、蓼ソース」
日本を代表するグランメゾンのひとつである「銀座レカン」は1974年創業。6代目の料理長を務める高良康之シェフは、老舗に根付くフランス料理の伝統を大事にしつつ、常に新しい風を吹き込んだひと皿を作り上げます。「レカン」は現在建て替えのために休業中ですが、高良シェフはこの間、生産者との交流や視察で全国を飛び回っています。日本の良さを吸収し、それをフランス料理で表現するシェフの魅力を探りました。
今回は日本のフレンチだからこそ表現出来る食材、旬の鮎を使ったひと皿にしました。鮎は日本の夏の風物詩で日本人にとてもなじみが深く好まれている食材ですが、季節感があり野性味を味わえるということで、僕はフランス料理におけるジビエのような感覚でとらえています。ジビエが野山の状態によって肉質が変わるように、鮎も川の状態やコケ、季節によって味が変わるので、毎回どう調理しようか考えるのが楽しくもあります。その時期に獲れる一番いいものを届けてくれているのは流通の「株式会社太陽」坂口洋一さん。もう20年の付き合いになるけれど、レカンの厨房には彼の目利きによって全国から選び抜かれた食材が届きます。今回は岐阜県の由良川に育つ天然のものを使いました。
僕が考える鮎の美味しさとして、まずは炭火焼きで食べるような香ばしさ、内臓の苦み、そして鮎が持つ香りがあると思います。日本ではそのまま塩焼き、というイメージが強いですが、その美味しさも生かしつつ、フランス料理としてのアプローチをした2品です。鮎のリエットは、一度グリルした鮎に内臓とフォアグラ、香味野菜などをあわせペーストにして、香ばしさと苦みを表現しています。ソテーは身の中に黒オリーブのタップナードを入れてわたのニュアンスをだし、豚の網油を巻いて焼いています。そのままでは少し淡泊な鮎も、油脂を補いしっかりとしたソースをあわせることでフランス料理としての味わいを引き出すことが出来ます。一緒に食べてもらいたいのはきゅうりの泡。鮎は香魚とも呼ばれ、独特のウリ科の香りがします。けれどそれは火を通すことによって薄れてしまうので、それを戻すために同じ香りの泡をのせて、香りも食べてもらえるようにしました。
僕にとって、フランス料理の中の“香り”の要素は一番大切なものです。だからそれぞれの料理の香りが最もたつ温度で調理し、お客さんの前に出すときが一番のピークになるようにしています。日本の素材は四季によってそれぞれの香りが楽しめます。春先の山菜や筍、桜の淡い香り、夏は鮎や、トマトやピーマンなどのむせ返るような強い香り、秋、冬にかけてのキノコやジビエなどの土の香り。特に日本の夏は強い香りのする食材が多い。今回の鮎に始まり、ウニ、鱧、桃やイチヂク、晩夏になるとマツタケなんかも出てきます。夏が来るとフランス料理は重たくて敬遠されるイメージがあると思うけど、実は、日本の食材を使うとフランス料理は夏が面白いんです。もちろん「銀座レカン」としては、フォワグラやキャビア、オマール海老などフランス料理になくてはならない食材もあるけど、日本ならではの食材だから出来るものもたくさんあります。日本のいい素材を、他の分野では出来ない手法で表現していきたいですね。
text by Hiroko Shinbori
→「鮎のリエットとソテー、蓼ソース」レシピ
高良康之シェフ/プロフィール
1967年東京都生まれ。 高校卒業後、料理の世界に入る。1989年に渡仏し各地で2年間修行。帰国後、赤坂「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」にて副料理長、日比谷「南部亭」、上野「ブラッスリーレカン」で料理長を勤め、2007年「銀座レカン」料理長に就任。現在ビルの建て替えにより2017年まで休業のため、生産者の視察や講習会など全国を飛び回っている。