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連載⑭ すし独楽/ 柳原雅彦氏

あさりのしぐれ煮

 

都立大学の住宅街にオープンして9年、「すし独楽」の大将 柳原雅彦さんは「たくさんの人に鮨をもっと身近に感じてもらいたい」と独自の鮨のスタイルを貫いています。充実した一品料理と良心的な価格設定、そして何より幅広い歴史トーク。料理にもそのアイディアが生かされるという深い歴史の知識は、今回のテーマでもある「ニッポンの味」をどう表現してくれるでしょうか。

 

 

th_DSC0018この煮詰めた醤油の色と香り、これを食べると江戸前の味だなあと思う一品です。醤油は日本ならではの調味料で、もとは原料を塩漬けにして保存したことから始まったもの。魚醤や肉醤の仲間の「醤(ひしお)」のひとつです。鮨のルーツと言われる「熟れ寿司」も、同じように保存のための塩漬けの過程で生まれたものでした。保存技術が発達する前は、食べ物をどう保存するか、そしてそれをどう食するかが重要だったんですよね。そんな先人の知恵から生まれた調味料、醤油を生かした佃煮を今回ニッポンの味に選びました。

 

 

 

 

th_DSC0003日本料理でももちろんですが、鮨の世界では醤油はとても大事な調味料です。うちでは今5種類の醤油を使っています。濃口、薄口、たまり、あとは自家製の2種類。この時雨煮に使っているのは濃口とたまり。関東では濃口醤油、関西ではうす口が好まれますが、それにはきちんと理由があります。関西では料理の基本にだしがあり、煮物などにはよく使われていますが、関東では素材から出るうま味をそのままだしとして用いています。そのうま味に醤油の味わいが入る。濃口しょうゆは色が濃い分アミノ酸が豊富に含まれているので、うま味も多く香りのバランスも取れています。逆に関西のうす口しょうゆはさらりとして繊細なだしの味を邪魔しません。最近では“だし”が世界でも注目されていて、京料理が日本料理の基本という考え方が広まっているように思いますが、私が考える日本料理は、その土地の食材と風土にあった調味料を生かした料理だと思います。もうひとつ、この一品には思い入れがあって、北海道から東京に出てきたばかりの頃、歴史小説が好きでそんな江戸の風景を思い描いていた私は、東京ではそば屋でつまみながら一杯やる、と言うのが憧れだったんです。夏場にまだ東京の暑さに慣れていない私は、休みの日になると赤坂のホテルオークラに涼みに行っていました(笑)。そこでゆっくり歴史の本を読むのが楽しみで。そして必ずその近くにあったそば屋「砂場」でお昼を食べるのですが、ビールを頼むと出るお通しが「あさりの時雨煮」。その煮しまった真っ黒い色をみて、これこそ江戸前だ!と思ったんですよね。とてもシンプルな一品ですが、あさりと醤油の味わいを楽しめる江戸前の鉄板です。

text by Hiroko Shinbori

 

 

「あさりの時雨煮」レシピ 

 

 

 

柳原雅彦氏プロフィール

th_DSC00361965年北海道生まれ。高校卒業後に鮨の道に入り、地元北海道で9年修業を積む。東京に食べ歩きに来た際「分とく山」で野崎洋光氏に出会う。系列店の川崎市の「寿し長」の立ち上げに抜擢されそこで板長を務めた後、2006年「すし独楽」を都立大学にオープン。割烹的な一品料理まで楽しめる鮨屋として人気。

 

 

 

 

 

 

 

「すし独楽」
〒152-0023  
東京都目黒区八雲1-8-9 エルミタージュ八雲1F
TEL:03-5731-0035
営業時間
   11:30〜13:30 L.O./ 17:30~22:30 L.O.
月曜定休
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