「さんまと焼きなすのスパゲッティーニ」
ナチュラルな白木が基調の店内に柔らかな灯り、友人の家に招かれたような心地よさを感じる表参道「FRICK」は2008年にオーナーシェフ深田景氏が若干29歳で独立したお店。シェフが初めてクーカルに参加したのは、初開催の2006年、イル•ギオットーネのスタッフとしてでした。「FRICK」オープン後にはシェフとしても数回参加。今では雑誌やテレビイベント出演と引っ張りだこの深田シェフが自身の「ニッポンの味」を考えます。
日本の秋を感じるパスタを作りました。定番のさんまに大根おろし、それに秋なすを加えた季節を味わえるひと皿です。さんまは皮目にアンチョビをぬりながらパリっと香ばしく焼き、大根はあらめにおろしてシャキシャキしたフレッシュさを、それにゆっくりと火を入れたトロトロの秋なす。それぞれの食材が持つ特徴を最大限に引き出しています。日本人の味覚は、とても繊細だと思うんですよ。だから素材の香りや色、食感などの細やかな表現を感じられる。この感覚は日本人ならではのものだと思います。それを楽しんでもらえる日本ならではのパスタです。
イタリア修業の際、僕はトスカーナを中心に滞在したのですがむこうでは野菜をクタクタになるまで煮込んで食べることがほとんどでした。もちろん野菜が持つ味わいが違うので、現地で食べるととても美味しかったのですが、日本で作るのであれば日本人の舌を意識した料理を作りたいですからね。帰国した時からずっとそういう思いがあったのですが、僕が帰国した2005年くらいの頃は、イタリアの郷土料理に特化した店がとても流行っていました。現地の料理や雰囲気をそのまま味わえるようなお店がたくさんあって。そんな時に出会ったのが京都の「イル•ギオットーネ」笹島シェフの料理でした。 野菜の色鮮やかさ、食感、美味しさがとても洗練されたもので、イタリアで食べた料理とは明らかに違っていたのですが、食材の扱い方がとても日本的だと感動しました。それがちょうど丸の内に出店される時だったので、迷わず働くことを決めたんですよ。そこで野菜の扱いを徹底的に学び、今の料理のベースになっています。
もうひとつ、このメニューに決めた理由があって、3年間のイタリア修業を終えて日本に帰国したのがちょうど今くらいの季節でした。帰って一番に食べたのが、大根おろしをのせたさんま。ああ、ふるさとに帰ってきたなあ、日本人でよかったなあとしみじみ思ったんです(笑)四季を料理で感じる文化があるのも日本独特だと思うんですよね。季節の移り変わりを楽しめる食材がいっぱいあるのだから、それをイタリア料理にも生かさないともったいない。そう思わせてくれた一品です。
text by Hiroko Shinbori
深田景シェフプロフィール
1978年東京都生まれ。調理師専門学校在学中から料理の世界へ。都内のイタリア料理店で修業後、 24歳から約3年イタリアへ。ミシュラン2ツ星のトスカーナ州「テンダロッサ」他数軒で腕を磨く。帰国後、丸の内「イルギオットーネ」で笹島保弘氏に師事しオープニングからシェフとして勤務。 2008年、表参道に「Ristorante FRICK」をオープン。野菜を主体としたイタリアンとして女性を始め、幅広い層に人気。